おとといまでの私にわからせるためのブログ

写真のことと、美術のこと、あと好きなことについて。私にわかるように書いてます

ロザリンド・クラウスの「指標論」を噛み砕く。 withゴードン・マッタ=クラーク展

 

「指標論」て何それ?的でもあり、いまさらどーした?的でもあると思いますが、今回はロザリンド・クラウスの「指標論」をボリボリ噛み砕こうと思います!

 

さて、ロザ…?クラ…?ゴードン……クラ……ってタイトルだけでどっちもだれや!状態かもしれませんね。

 

まず、ロザリンド・クラウスアメリカの美術批評家。

 

f:id:yzgz:20180724075413j:plain おしゃまんべです。

 

クラウスは、ポストモダニズムの現代美術の時代の中心的な存在で、現在76歳です。

ブログタイトルの「指標(インデックス)論」も彼女が書いたもので、そのなかで言及されているアーティスト、ゴードン・マッタ=クラークの展覧会が、灼熱地獄の東京・国立近代美術館で開催中です!

 

f:id:yzgz:20180724080141j:plainGMC 31歳。

 

今回のブログでは、クラウスの「指標論」を通して、国立近代美術館で開催中のゴードン・マッタ=クラーク(以下GMC)の展覧会について考えながら、「指標論」を噛み砕いていきたいと思っています。

 

クラウスの「指標論」は通称「インデックス論」と呼ばれる論文です。

 

この「指標論」、70年代の抽象芸術について論じているのですが、同時にとても重要な「写真論」であるとも言えます。

 

ちなみに「指標論」にはパート1とパート2があり、GMCについての言及があるのはパート2。そして私がGMCについて知ったのも、まさに「指標論」を読んだのがきっかけ。

 

さて「指標論パート2」冒頭でクラウスはこんなことを言っています。

大人女子会風のクラウス。(のイメージ。)

写真と抽象絵画って、めっちゃかけ離れてるように思えるけど、最近の、つっても1970年代の抽象芸術についてはそうでもないって感じがする。実際、最近の抽象芸術は、かなり写真的だよね〜。抽象絵画って写実的なものバイバーイ的なムードでめっちゃ流行ったけど、逆に、最近は抽象芸術が写真の機能とかちょー意識してきてる気がする。

こんな感じで話されたら「わかるー」って言いたいところだけど、あんまりしっくり来ませんね。

じゃあクラウスの言う「写真的」ってなんなんでしょう?

 

ここで、さっきからなんどか繰り返されてきた「指標」という言葉に着目します。

「指標」とは、ある対象(もの)を表す記号や方法を分類したときのひとつのグループの名前です。

記号は、指標を含めて3つに分けることができ、他に「イコン(類像)」と「シンボル(象徴)」があります。

例えば、「タイヤ」をあらわす記号の3分類を見てみましょう。

 

タイヤのイコンはタイヤと「類似性がある記号」で、

これとか、 f:id:yzgz:20180724090438j:image

f:id:yzgz:20180724090442g:imageこれとか。

こんなの。f:id:yzgz:20180724090450p:image

このように、イコンのわかりやすい例は絵です。つまり、本物の対象に「類似している」記号なのです。

 

つぎにシンボル(象徴)。

タイヤのシンボルは「タイヤ」であり「たいや」であり「tire」であり「إطار العجلة」であり「សំបកកង់」です。

私たちはあの、乗り物の下についている、丸くて、ゴムっぽい素材で、大抵は黒いアレを「タイヤ」と呼びますが、アレが「タイヤ」である、ということは、みーんなの暗黙の了解ですよね。ものの名前などは大抵、こうした暗黙の了解によります。

だから、「タイヤ」と、みんなが「タイヤ」と呼ぶ乗り物の下のアレの間には直接の結びつきはありません。

つまり、アレが「タイヤ」であることは、みんなの約束ごと。

このように、みーんなのお約束に基づく記号を、シンボルといいます。

 

さて、最後にインデックス(指標)です。

タイヤを示すインデックスは、タイヤが通った後の轍(わだち)や、道に残されたブレーキ痕などです。

他の例を出すと、根性焼き痕はタバコのインデックスで、木がわっさわっさと揺れていたらそれは風のインデックス、となります。

つまり、インデックスという記号は約束事でも類似でもない、「物理的な結びつき」がある(あった)記号。

それと、「あなた」や「わたし」「あれ」「これ」など、発話者とタイミングによって内容が変わる言葉も、なにかを実際に指差して発する言葉で、「それそのもの」を示すためにインデックスの記号に含まれます。

 

 と、ここまで3つの分類を見てきましたが、さて、写真はどこにあてはまるでしょう??

 

……Aのイコン………….か…………?

と思いきや、実はインデックス(指標)なのです!ババーーーン!

 

えー?って感じですね。写真は本物にそっくりだから、イコンっぽい感じもする。

 

ではなぜ写真がインデックスなのか。

 

「指標論」が書かれた頃、写真はフィルムで撮影するものでした。フィルムの感光性や、印画紙に焼き付ける方法は、化学反応によります。

つまり、写真とは、わたしたち人間の手によって作られた類似の記号ではなく「自然界の秩序」による「光の物理的な接触の痕跡」なのだとクラウスは言います。

だから、写真はインデックスの記号になるのですね。

そして同時に、写真が示すものは、「それ」や「これ」という言葉のように、写し出された景色を「指し示す」ものでもある。

例えば、証明写真は、写真がある人その本人を「指し示す」もの。写真はそのような指し示す特徴を持っているので、そういう意味で写真はインデックスなのです!

 

このように、クラウスが「指標論」のなかで、「写真的(本文では写真の機能的モデルなどの言い方)」としているのは、写真の「インデックス(指標)」的な特徴のこと。

つまり冒頭の女子会トークでクラウスが述べていたのは、「指標的な特徴=写真的な方法を使った抽象芸術を最近よく見ます、」ということだったのでした。

 

さて、ここでよ〜〜〜〜〜うやく、GーどんMッタCラークの登場です!!

 

GMCは、パフォーマンス・アートや建築、空間などに関心がある現代美術家です。

彼の代表的なプロジェクト、「ビルディング・カット」は文字通り、建物に切れ目をいれる作品ですが、今回の展覧会では、その写真や模型などを見ることができます。

 

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GMCの試みは、すでに建った建物を「カット」することによって、わたしたちが意識の外に置きがちな「建物そのもの」や「内と外」の関係に意識を向かわせます。

 

こちらの《スプリッティング》のプロジェクトでも、切断の痕跡がその作品の中心的な要素になっています。

 

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GMCの作品はこのように、「指し示す」という写真的な方法を使った芸術作品なのです。

 クラウスは

マッタ=クラークの作品において、切断が建物を意味するーーそれを指し示すーーことができるのは、ただ除去や切り取りというプロセスによってである。

 と述べて、GMCの作品が持つような指標性を、ぐいぐいキてる現代芸術の特徴としています。

 

例えば、少し手法は異なりますが、

《ごみの壁》、《ごみのレンガ》などのシリーズもわたしにとっては写真的。

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《ごみのレンガ》は、ガラス工場のゴミを固めた作品。

そもそも単なるごみにも指標性がある気がするけど、それをレンガとして固めること、それを作品にすることによって何層にも指標性が含まれている気がします。

 

個人的お気に入りは、《日の終わり》。

 

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この穴は、まず穴があること、そして壁があったことや、外に海があって、太陽があって、影の位置やかたちが変わることによって時間の変化や空間の広さ(そして狭さ)を「指し示し」ています。

 

また、今回の展覧会ではフォトコラージュで「ビルディング・カット」を再現する手法も多々見られます。上下左右やパース、スケールが自由に組み合わせられたコラージュは、刺激的に写真が使われていて、三半規管に訴えてくる感じが楽しかったです。

 

わたしは、今回のGMC展を見て「それがあった」ことを示す「写真的」芸術の力に驚いて、 ああそうだった!と、写真のそういう純粋な「指し示す」能力が生み出す感動を思い出したりもしました。

 

GMCの展覧会は「写真的」の観点を入れて見てみると、パフォーマンスアートや建築への問題提起だけでない面白さを感じることができるので、クラウスの「指標論」と合わせておすすめ。

「指標論」がある意味「写真論」であったように、今回のGMC展も、むしろ「写真展」なんじゃないかとさえ、思えてきちゃいます!

写真をやってる人にとっては、どこが「写真的」かを考えながらみると、逆に「写真ってなんだっけ?どういうものだっけ?」という問いも生まれてきます。それってもはや写真展より写真展かも?

 

9月までやってますので夏休みにぜひ!

 

www.momat.go.jp

 

yzgz.hatenablog.com

☝︎こちらは過去の噛み砕くシリーズです。

 

 Have a good summer vacation 〜 ☆